話し合いでの約束
大学事務に求めていた話し合いの日時は、僕の意向など一切聞いては貰えず、大学事務と日本画教員たちの都合だけで決められた。
大学事務から指定された時間といえば、僕は午前の講義時間と重なっていた。
新学期の授業は始まっている時期でもあり、僕は日本画の授業に出席することを禁じられている立場でもある為、その話し合いの日まで日本画の実技の授業は受けられない。
僕は講義の授業も日本画の実技の授業もきちんと受けたいから、話し合いの日時の変更をしてくださいと大学事務へお願いする。
それでも大学事務側は、
「君のために、日本画や彫刻の教員たちみんなが予定を開けているのだから、その日に話し合いをしなさい。その日にある講義も欠席しなさい。」
と返してくる。
僕は仕方ないと考え、その授業を休んで話し合いをする。
それから、まずは彫刻のK先生とふたりで話をする様にと指示を受けた。
その後で、僕と日本画の教員たちとの話し合いを始め、彫刻のK先生は中立的立場で間に入るという流れだ。
彫刻科の校舎内で、K先生(彫刻教員)と初めて合い、これまでの話をしていく。
日本画のK先生(女子)のことや洋画のM先生のこと、前年度に行った他校の再受験の話に関しては、話にあげなかった。
話のはじまりは、僕が一年の浪人生活を送って、必死に絵画の基礎を教わったことから説明した。
『僕は洋画・彫刻・デザインを各々専門としている人達に、絵画の基礎を学んだ。
だから、僕の持つ絵画の基礎であるデッサンや着色写生等は、洋画・彫刻・デザインの分野の人達とは通じるものを持っている。
しかし、僕が持つこの基礎はこの大学の日本画の教員達には通じず、そのことに対して行った質問を契機に、日本画教員達の僕に対する偏見を持ち、僕への日本画教育は一年のその当時から止まる。
課題の内容についても、日本画の教員たちは明らかな嘘をつくようになり、一般生徒が与えられる課題の政策スペースも僕だけが利用できなくなり、最終的には日本画の授業への出席までもを禁止された。
この問題について、大学事務に助けを求めなければ前向きな話し合いさえもできない状況であり、その話し合いこそがこの場であること。
僕個人としては、これからであっても、一般生徒と同様の日本画教育を受けられる環境を用意してもらえさえすれば、細かな話し合いをしなくても解決や和解という形としてこの問題を終えてもよいと考えている。』
僕からK先生(彫刻)へ伝えた話は大体このような内容となるが。
当時の僕はここまで完結に話をまとめられず、細かな話までもを長々と語り聞かせていた。
説明をしながらも、僕は自分で上手く説明できていないことも理解はしていた。
それでも、僕はこの問題の内容を少しでも理解してもらおうと、これ迄のことを文章に書き綴って日本画の教員と大学事務へと渡していた。
K先生(彫刻教員)との会話を終えてから、昼休憩を挟んだ後に日本画教員も交えて話をすることとなった。
昼休憩の後、やってきた日本画教員はA先生(男子)とS先生の二人だけだった。
この時点で僕は
「なんでこの二人しか来ないのですか。大学事務の話では日本画の教員全員を来させるって話だったじゃないですか。」
といって怒っていた。
K先生(彫刻教員)やA先生(男子)・S先生の全員が「他の先生たちは、どうしても外せない用事で来れなかった。」と語る。
僕は「それは話が違う。これでは話し合いはできない。」と言って、話し合いをせずに大学事務へ抗議に向かおうとする。
その僕をK先生(彫刻教員)は怒鳴りながら呼び止めて、僕に対して約束事をする。
『この場で話し合った内容は、欠席した教員にも無条件で必ず共有して善処にあたる。
欠席したのだから、絶対に後から文句も言わせない。
この約束は、K先生(彫刻教員)が必ず責任をもって果たす。
だから大学事務へ抗議にいかずに、ここで話し合いを行いなさい。』
僕はこのK先生(彫刻教員)の言葉を信じて、話し合いをすることとした。
この話し合いの一番最初にK先生(彫刻教員)は、こう話してくる。
「午前中に君が話してくれた話は、一通り俺(彫刻のK先生)と日本画の先生達とで話した。」
そのK先生(彫刻教員)の発言のすぐ後、A先生(男子)もこう語り始める。
「指導に熱が入って、こんな絵を描くんだったら大学辞めてしまえって言ったくらいのことで、高木君は怒って大学事務に乗り込んでいったという話だけど。
俺たちの時代だったら、指導のなかでそんなこと言われることくらいは当たり前のことだった。
今の時代は、その程度のことを口にしたくらいで、大ごとになってしまうおかしな時代なんだね。」
このA先生(男子)の発言から、僕には幾つもの嘘を感じ取り、僕は声を荒げて反論する。
「誰がそんな嘘を語ったんだよ。
俺はK先生(彫刻教員)にそんな話を語っていないだろ。
A先生(男子)も、俺が課題の下図相談を何度も持ちかけてきたのに、一度も対応したことなんかなかっただろ。
そういう行為を日本画の教員全員がしてきたことについて、こうして話し合いをしようって言ってるのに、何でそんな嘘をついて誤魔化そうとするんだよ。
今から前向きな話し合いをする為にも、そんなことをA先生(男子)に語った人物を教えろよ。」
僕がこう反論してから、A先生(男子)はこれ以降何も喋らなくなる。
A先生(男子)が語った話の出所については、K先生(彫刻教員)もS先生も「俺はそんなこといっていない」というばかりで、誰が語っていたかについては口を開かない。
これでは話が進まないので、本来の内容へと入る。
1年次に僕が最初にした質問である日本画の光や影について。
K先生(女子)が授業のなかで
「日本画では、光が当たった結果現れるものは一切描かないでください。」
という言葉を発していて、その指示について僕はK先生(女子)に質問を持ちかけようとした。
しかし、研究室(日本画の職員室)ではS先生やA先生(女子)が僕の対応をしようとして、K先生(女子)とは会話させないし、僕の質問についても誤魔化すばかりできちんと答えない。
それが全ての始まりだったと語るが、S先生は「そんなやり取りはなかった」と語る。
僕が何度も繰返し質問をして、その質問をする行為にS先生が怒っていたことについても「そんな場面はなかった」という。
僕の人間関係が破綻していき、盗難問題で苦しみ日本画の授業に出席できない状況になったことについて。
S先生は、僕が1年生の頃から苦しんでいるのは知っていて、僕の為に数えきれない程の対処を日本画の教員たちで行ってきて、それでも善処できなかったことは悪かったと思っている、と語る。
あの時、何の対応もしてこなかったではないかとか、S先生は嘘しか語っていないとか、そんな反論を僕は感情的になりながらしていた。
それ以外の話でも、S先生が「もう誰とも口をきくな」と怒鳴り付けてきたことや、K先生から大学(日本画校舎)の出入りや授業の出席を禁じてきたこと、課題の件で教えてきた(嘘の指導)内容等も、全て「そんなことはしていない(そんなことはなかった)」と否定する。
僕は2年次の後半から3年生の年度末まで、K先生(男子)の命令によって全く授業に出席していないのだが、その時期のことも「他の生徒と同様の教育や指導は行った」「日本画の教員側に落ち度はない」と言いきる。
その上で
「指導に熱が入って、こんな絵を描くなら大学なんか辞めてしまえ、という発言をしたことに関しては謝る。」
「でも俺達の時代は、もっと酷いことを言われるのが当たり前だったから、それが悪かったとは考えられないでいる。
今はそういうおかしな時代なんだね。」
などとA先生(男子)に同意を求めるが、A先生(男子)は何も喋らない。
僕はS先生の語る内容の全てに怒りながら反論するが、K先生(彫刻教員)は「話が進まないから」といって、事実問題を確認したり細かな話をすることを認めなかった。
その代わりとして、当初からの僕の求めていた『今からであっても、他の生徒と同じように学べる環境を用意してくたなら、これ迄のことは目を瞑ってもいい』という内容を、日本画の教員全員に呑んで貰うことで結論とした。
僕はK先生(彫刻教員)の話の持っていき方に、何度も反論をした。
これ迄の過程で、僕は何度もS先生に同じことを言ってきた。
(ブログのなかでは、その辺りの話は省いてしまってはいるが。)
『これからきちんとしたことを教えてくれるならば、これ迄のことは水に流してもいい。』
過去にそう語る僕に対して、S先生はその提案を呑む返答をしながら、嘘の上塗りを繰り返してきた。
S先生に限らず日本画の教員達は、教員としての立場や人としての面子もあるだろうから、僕は当人との前向きな話し合いを求めてきた。
それでも、もう信じる余地がないから、僕は大学事務へ話を持っていき、対処して貰えないのならば裁判を起こすとまで言ったのだ。
せめて、僕への日本画の指導が再開される場面に第三者をつけて、きちんと約束が果たされているかの客観的な確認をとってくれと、話し合いの最後まで求めた。
こんな口約束だけでは、S先生は絶対に約束を守らないし、ここに来なかった日本画の先生達も、新しい嘘を吹き込まれるだけで行動は改めない、という意見も語った。
それに対するS先生も「そんなことをしなくても、高木への対応は必ず改める」と、何度も口を挟んでいた。
最後は、K先生(彫刻教員)から僕へ怒鳴りながら、話し合いを終わらせる。
『俺が責任を持って日本画の先生達に対処させるんだから、日本画の先生じゃなくて、俺のことを信じろ。
もしお前(僕)が言うように、日本画の先生が行動を改めなかったら、その時は日本画の先生達に土下座でも何でもさせるから。
だから、今回はこれで我慢しろ。
そうしないと、この問題は解決なんかしないんだ。』
話し合いを終えて解散となった場面で、K先生(彫刻教員)は僕に少し残るように言ってくる。
S先生とA先生(男子)が去ってから、K先生(彫刻教員)は僕にこう話してきた。
『君(僕)の言い分も解るし、納得もいかないのも解るけど。
これ以上、日本画の先生達を追い込むようなことをしちゃいけない。
君が大学事務へ話を持っていったことで、もう十分すぎる程、日本画の先生達は恥をかいたんだよ。
本当のことを言うと、S先生の言うことが矛盾だらけであることは、俺も話を聞いていて解った。
以前にも、S先生が日本画以外の先生達に対しても「日本画に頭のおかしい奴がいる」と話しているのも知っていたんだ。
だから、傍目には君の言うことが正しいと見えているんだよ。
でも、これ以上日本画の先生達を追い詰めてしまうと、君の身に危険が及ぶ。
そうならなかったとしても、日本画の先生達は組織的に君を排除する行動に出る。
そういうことを考えたら、この辺りで妥協しなきゃダメだ。
S先生も、これからの行動を改めると、俺の前で君に約束したんだから、これでよしとしなさい。』